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夢を叶えるには

夢を叶えるには
夢は念ずれば叶う、ということを前回書きました。
不肖ながら私にもいろいろ夢があります。
最近どういうわけかはよく分かりませんが、若い頃に好きでよく聴いた洋楽に、再び熱中しています。洋楽、ポピュラー音楽といっても、当時も今もあまのじゃくの私は、当時ヒットチャートを賑わせていたものにはまったく目もくれないで、ひたすら古いものに向かっていました。ローリング・ストーンズとかエリック・クラプトン、それに彼らが若い頃に大きな影響を受けた黒人ブルースマンの歌とか、そういう類いの音楽ばかりを扱っていた大学近くのレコード屋さんに毎日のように入り浸ったりして、知らなかったミュージシャンやレコードを「発見」しては胸をときめかせました。
自分の夢とどんな関係があるかと言いますと、学生時代はただひたすらかっこいいから聴いていたにすぎなかったそういう音楽から、自分も歳をとってそれなりに経験や知識が溜まってきているためでしょうか、若い頃には聞こえてこなかった何かが聞こえてくるようになっていて、ポピュラー音楽の源というのはやはりアメリカにあるのだろうと思うのですが、そういう音楽が生まれてきたアメリカという国の歴史や文化を詳しく調べてみたい、というか改めて勉強してみたいという気持ちが、また勉強するだけでなくいつかは実際にその地を訪れてもみたいという気持ちが、むくむくと起こってきています。
ここは自分の好きな音楽の話を長々とする場所ではありませんから、自己満足的な趣味的な話は控えたいと思いますが、ポピュラー音楽が興味深いのに劣らず、アメリカという国の歴史や文化も、最近の私にはとても興味深いものです。
興味のある方には、ポピュラー音楽批評の第一人者であるグリール・マーカスの著書『ミステリー・トレイン』や、19世紀フランスの思想家トックヴィルの古典的名著『アメリカのデモクラシー』あたりから読んでみられることをお勧めします。『タクシー・ドライバー』の映画監督マーティン・スコセッシがアメリカの有名なロックバンドのコンサートを撮った映画『ラスト・ワルツ』なども、音楽を糸口にアメリカという国を考えてみようとする際には外すことのできない第一級の資料だと思います。
塾に通って来てくれる子どもたちのお母さん、お父さんぐらいの年齢の方であれば、ロックやジャズといった音楽に眉をひそめられるようなことはよもやないと思います。しかしそういう音楽には根っから反抗的で大人の世界の常識・良識に頑として染まるまいとするところがあるのも確かで、昔も今も、「不良少年」「不良少女」たちを力づけてくれます。
私のようないい歳をしたオジサンふぜいが不良少年を気取るのはあまり格好のいいことではないのですが、今でも心の中には、大人の常識・良識に盾突く不良少年の魂が生きているのを感じます。近頃の不良少年に、そういう「気骨」?は果たして残っているのでしょうか。
ロックンロールは荒々しい不良の音楽です。でもそれは、大人の世界に理由もなく盾突くだけの「クソガキの」音楽ではなく、大人の世界を今あるよりもっと良いものへと刷新することができるという希望の表現なのではないかと思っています。それも、平々凡々たる名もなき庶民の希望です。ロックンロールは、クラシック音楽と違って、その気になれば誰にでも歌い奏でられる音楽です。私はクラシック音楽も好きですが。
アメリカという国は、その建国の時から、デモクラシーの実験室であることをずっと宿命づけられていました。ロックンロール自体は20世紀に生まれたものですが、これほどこの国の歴史と文化を象徴しているものはないのではないかとも思います。
自己満足的な話はしないと言いながら、結局してしまいました。なんとも申し訳ありません。しかしあらゆる物事には意味がある、と言いたいのです。人の好みや興味関心はさまざまですが、それを突き詰めてみようとする人はどれほどいるでしょうか。オタクとか引きこもりを悪しざまに言う今の日本の風潮は益するところがないと言って、かつて思想家の吉本隆明は嘆きました。何であれ見どころのあるものはすべて、世間の普通の営みからは一歩引いた、いわば引きこもったところから生み出されると。
夢を叶えるには根性が要ります。長い風雪に耐えたものだけが、春の芽吹きのための機会を与えられるのだと、哲学者のヘーゲルも言いました。弁証法には、長い間の封建領主の圧政に黙ってひたすら耐えた農民のへそ曲がりのしぶとさがあるとも。
突き詰める価値がある、追求する価値があると少しでも思えるなら、たとえ周りから何と言われても、それを突き詰めようとする人であってほしいと、私は子どもたちに対して伝えたいです。なかなか難しいことなのですが。
あらゆる物事には意味がある。まだ誰にも気づかれていないその意味を発見して、この世界の陰影をくっきりと浮かび上がらせるような人になってほしい、と思います。今も古いアルバムから聞こえてくるボブ・ディランの反抗的で愛に満ちた歌に耳を傾けながら、これを書いています。そういう人が私の教室から巣立っていく日を夢見ながら。
水橋校 涌井 秀人